2006年8月16日(水):晴れ:新横浜駅→名古屋駅→木曽福島駅―(バス)→濁河温泉・覚明荘→緋の滝→白糸の滝→無名の滝→御嶽山飛騨口里宮→原生林遊歩道
■ 昨年(2005年)の夏は出羽三山に登った。今年の夏は木曽御嶽山に登ることにした。スケールという点でも山岳信仰という点でも筆者の興味をそそる山である。「山と高原地図39:御嶽山」のガイドブックでは以下のように紹介されている。
「御嶽山は我が国第14位の高峰であり、その根張りは東西30数kmにも及び、一つの山としては日本で最大の山塊である。北アルプスから一歩離れた独立峰として天空に向かって悠然とそびえ、長い裾野をなびかせている」「御嶽山は、富士山、白山、立山などと並ぶ信仰の山である」
御嶽山の登山口には、黒沢口、王滝口、開田口、日和田口、濁河温泉などがあるが、今回は飛騨側の濁河温泉から登り、広い山頂部の中央に位置する二ノ池新館に一泊し、木曽側の黒沢口に下る。本日は濁河温泉まで行き、周辺を散策し、御嶽山の開山の先駆となった覚明行者が宿の名前になっている覚明荘に泊まり、翌日の朝から登り始める。
新横浜06:18発ののぞみ1号に乗り、07:39に名古屋に到着。名古屋08:00発のワイドビューしなの3号に乗り換え、09:22に木曽福島に到着。バスの出発まで時間があるので、駅の周辺を散策する。
夏季のシーズンのみ運行されているバスに乗り濁河温泉に向かう。所要時間は90分。途中、日和田ロッジやチャオ御岳リゾートなどに停まる。木曽福島駅から御嶽山の北側の麓をまわって飛騨側へと入っていくので、途中で何度か御嶽山が眺められるポイントを通過する。雲が多めではあるがよく晴れているので、南北に長くのびる御嶽山の山容がよく見えた。
御嶽山が視界から遠ざかっても、白樺の樹林やその他の緑、青空や流れる雲が美しく、気持ちのよい風景が広がっていて見飽きない。
本日の宿である濁河(にごりご)温泉の覚明荘に到着。濁河温泉は標高1800mという高所にある温泉地。下呂市観光案内サイトによれば、「明治20年ごろから温泉宿地として開拓され、登山者が宿泊できるようになったといわれ、昭和30年に久々野から秋神温泉を経て濁河温泉までの車道通行が可能となり、宿泊温泉地となりました」とのこと。温泉の泉質は、炭酸水素塩泉(ナトリウム・カルシウム‐炭酸水素塩・硫酸塩温泉)、効能は神経痛、動脈硬化症、高血圧症など。
とりあえず宿にザックを預け、軽装で周辺を散策することに。御嶽山の信仰の道としては、覚明行者が開いた黒沢口と普寛行者が開いた王滝口がよく知られているが、この飛騨口にも信仰の道としての歴史がある。覚明荘の目と鼻の先の道路わきには不動明王が祀られている。その背後には巨大な溶岩石が隠れているようだ。
濁河温泉の見所のひとつは、温泉地のわきを流れる濁河川にかかる滝だ。本日はそのうちの二本を訪れる。まず温泉街から一番近い緋の滝へ。県道から遊歩道が整備されていて、滝見歩道の標識にしたがって進むとすぐにたどり着く。
緋の滝は落差20m。流れ落ちる滝と滝壺と滝裏の岩肌と周囲の緑が独特の景観を作り上げている。滝壷は温泉の成分によって青白濁し、赤茶けた岩肌は釉薬をかけた焼き物を思わせる。周囲にはアオモリトドマツやサラサドウダンなど多くの植生が見られるということだが、確かに木々の緑が変化に富んでいる。
緋の滝から温泉地のわきを流れる濁河川のほとりに出る。
光の加減で青が微妙に変化する川の流れも見飽きない。時間があるのでゆっくり眺めていた。
青白濁した水と岩肌のコントラストも美しい。
もう一本の滝である白糸の滝に移動する途中でまたお不動さんに出会う。こちらも溶岩石と背中合わせになっているところが興味深い。
緋の滝の上流にある落差15mの白糸の滝に到着。
平らになった溶岩石の表面をいく筋もの糸のようになった水が滑り落ちている。
この滝の下は湯の谷と濁河川の流れが合流する場所にあたり、ここで水が白濁するといわれている。はっきりとはわからないが、滝壺の部分では水が白く変色しているように見えないこともない。
濁河川をもう少し上流にいったところにかかる嶽橋の上からは、無名の滝を見下ろすことができる。落差は15m。赤茶けた平らな溶岩石の上を水が流れる滑滝のようだが、もっと水量が多いとまったく違って見えるのかもしれない。
御岳大明神の扁額がかかる鳥居をくぐり、石段を登る。石段の上の広場には、七福神の像が並んでいる。鳥居も像も新しく、最近、奉納されたもののように見える。
その先に信仰の道を象徴する御嶽山飛騨口里宮がある。建物のわきには、御岳大神の幟がたなびいている。
鉄製の階段をのぼり、拝殿で明日の登山の安全を祈願した。
明日もこの道を通って山に入っていく。その道のわき、大岩の下には霊神碑が祀られている。道の先には、仙人滝があるが、そこは明日、登る前に訪れる予定だ。
散策の最後に訪れたのは原生林遊歩道。健脚向きの自然探勝路(4時間コース)と原生林遊歩道(1時間コース)のふたつがあるが、もうそれほど時間が残されているわけではないので後者を選択した。濁河温泉付近の原生林では、シラベ、コメツガ、トウヒ、ネズコ、ヒノキ、ダケカンバなどの樹木が見られるという。巨大な溶岩石と樹木が独特の景観を作り上げている。
覚明荘に戻り、ひと休みしてからまず風呂へ。男女別の内湯と混浴の露天風呂がある。まず汗を流して内湯に浸かり、それから露天風呂へ。茶褐色のお湯は熱くもなくぬるくもなく、ゆっくり浸かれる。露天風呂からは、谷底を流れる濁河川の向こうの山が見え、風が気持ちいい。
夕食は食堂でいただいく。食事をしているうちに、席が隣になった男女の客と親しく話をするようになった。それは貴重な経験になった。男性の方が山登りに詳しく、まだなにもわかっていないわれわれに山登りのイロハを丁寧に教えてくれたのだ。それはいまでも大いに役立っている。彼は今回は登りにきたわけではなかったので、明日から御嶽に登るわれわれをうらやましがっていた。
※今回、記事を書くにあたって覚明荘のことを調べたら、すでに廃業していた。思い出深い宿だったので非常に残念だ。
(木曽御嶽山に登る その二につづく)